任意後見制度とは、認知症や障害などにより正確な判断を下せなくなった後に、本人に代わってしてもらいたいことをあらかじめ決めておく制度です。
この制度により…
「今はいいけど、一人暮らしだし認知症になったら生活できない。」
「病気などで正確な判断が出来なくなったら、詐欺の被害にあうかもしれない。」
…といった不安から解放されます。
したがって、任意後見制度とは「もしもの時にも安定した生活を送るために備えておくための制度」と言えるでしょう。
しかし、その制度を活用するには、法人や士業事務所などとの契約が必要になる他、少なくない費用も掛かります。
そこで今回は、任意後見制度の内容やメリット・デメリットについて紹介したいと思います。
この記事は…
- シニア世帯の夫婦や一人暮らしの高齢者
- 将来、認知症になった後の生活が不安な方
- 離れて暮らす高齢の親がいる方
- 任意後見制度を含む生前契約について興味のある方
…などにお読みいただけると幸いです。
冒頭で伝えた通り、任意後見制度とは判断能力が低下した時に、自身の代わりにしてもらいたいことをあらかじめ決めておく制度です。
自分の判断能力がしっかりしているうちに契約し、万が一に備えておきます。
また、自分の代わりに財務管理や各種事務手続きなどを行う人を「任意後見人」といいます。
この任意後見人には、特別な資格等は必要ありません。
つまり家族やでなくても、親族や友人、はては第三者でも指名することが出来ます。
もちろん契約後に任意後見人になる方…任意後見受任者の同意は必要になります。
本人の代わりに、任意後見人が行う業務内容は主に以下の2つです。
- 財産管理
- 身上監護
まず、任意後見人の仕事で重要なのが、委任者の「財産管理」になります。
判断能力が低下した委任者は、自身の財産の管理が困難になります。
いつどこで、どのような買い物をしたのか覚えていない場合も多いのです。
高額の財産があったり、重要な契約については、なおさら困難です。
そこで任意後見人が委任者に代わって、財産の管理を行います。
日々の生活に必要な預貯金の管理から、銀行口座の入出金、税金・公共料金の支払いなどを管理・代行します。
- 預貯金や有価証券の管理
- 年金の管理
- 税金や公共料金の支払い
- 賃貸借契約の締結や解除
- 財産となる動産・不動産の売買
- 社会保障関係の手続き
- 本人が行うべき法律行為
もうひとつ任意後見人の重大な仕事に「身上監護」があります。
身上監護とは、本人に必要な医療や介護を受けられるよう、医療や介護に関する契約などについて、本人に代わって必要な手続きを行う事をいいます。
とはいえ、あくまで本人の意思を尊重する必要があるため、了承のない医療行為や強制的な施設入居は出来ません。
そのため判断能力のある契約時に、自身の希望を伝え残しておきましょう。
- 生活費の送金
- 医療機関での手続きや支払い
- 要介護認定に関係する申請や手続き
- 介護や福祉のサービス契約
- 施設入居の手続きや介護費用の支払い
あくまで任意後見人は、本人に代わって財務管理や生活上の契約・各種手続きなどの、事務処理を行うのが仕事です。
したがって介護そのものや、本人でなければ行えない縁組などは、任意後見人の仕事には当てはまりません。
任意後見人が行わない(行えない)業務は以下の通りです。
- 掃除や洗濯、料理の提供
- 入浴・排泄の介助
- 日用品の購入
- 保証人となること
- 治療に関する同意
- 婚姻や離婚
- 養子縁組、離縁
- 遺言書の作成
判断能力が低下した方にとって、任意後見制度は自分らしい生活を守るのに、とても有効な制度です。
しかし、どんな制度にもメリットもあればデメリットもあります。
ここでは任意後見制度のメリットとデメリットをみてみましょう。
- 本人の希望を契約に反映できる
- 任意後見人を自分で選べる
- 詐欺や悪徳商法を防止しやすい
- 施設へ入居しやすい
判断機能が低下する前に契約を行うため、契約内容に自身の希望を反映しやすいメリットがあります。
例えば「将来どのような施設への入居を希望するのか」「どのような状況、条件なら自家用車や自宅の売却するのか」など、様々な内容を決めることが出来ます。
後述する法定後見の場合は、民法で後見人の権限内容を決められています。
そのため、本人の状態やニーズによってサポート内容を決定できる任意後見は、格段に自由度が高いと言えます。
自分で後見人を選べることも大きなメリットです。
一部条件を除き、信頼できる後見人を自由に選ぶことが可能です。
それに対して、法定後見では本人の判断機能が低下しているため、後見人の選任は家庭裁判所が行うことになります。
そのため本人の推薦がある場合でも、親族の中に適した人物がいたとしても、裁判所が選任するとは限らないのです。
任意後見によって、生活や財産の管理に後見人のサポートが入ります。
これにより日常に本人以外の目が入ることとなり、詐欺や悪徳商法から保護できる確率が高まります。
ただし、任意後見制度には本人が行った行為の取消権はありません。
つまり後見人の目が届かないところで、高額な壺を買わされてしまったとしても、後見人はこの行為を取り消すことは出来ないのです。
ただし、契約時に任意後見人に「紛争処理についての代理権」が与えられていれば可能性はあります。
クーリングオフなどの制度を利用して、契約の取り消しや無効を主張できます。
介護施設などへ入居契約を結ぶには、法律上利用者の意思能力が必要であると定められています。
つまり、判断能力の低下が見られる場合は、入居契約を結べないのです。
しかし、任意後見人がいれば、本人の代理として認められるため、スムーズに入居手続きを進めることが出来ます。
そのため、将来入居を希望する施設があるならば、しっかりと後見人に伝えておくことが重要です。
- 認知機能低下後は制度を利用できない
- 任意後見監督人の選任が必須で、追加費用がかかる
- 死後の事務処理は別契約が必要
- 任意後見人が不正を働く可能性がある
任意後見制度はあくまで、本人に判断能力がある時に締結できる制度。
それにより本人の意思を最後まで反映させることが目的です。
したがって、重度の認知障害がある状態では、任意後見制度は利用できないのです。
既に判断能力が低下している場合は、法定後見制度を利用することになります。
制度を利用し任意後見を開始するには、後見人が契約通りに仕事をしているかを監督する「任意後見監督人」を選任する必要があります。
この任意後見監督人には、弁護士や司法書士、法律や福祉に関わる法人などが選任されるのが一般的です。
つまり任意後見を開始すると、後見人だけではなく、監督人にも報酬を支払う必要があるのです。
ちなみに監督人への月額報酬は管理財産額によって変化しますが、5,000円~30,000円が相場となります。
少なくない金額が掛かりますので、計算に入れておきましょう。
本人が亡くなると、任意後見契約は終了します。
そのため死後の事務処理や財産管理を任意後見人に依頼することは出来ません。
もし死後のことも依頼したいのならば、「死後事務委任契約」を締結しておきましょう。
いくら本人が信頼して選んだ後見人でも、不正を働くケースは少なからずあります。
本人の判断能力が無くなったことにつけ込み、後見人が財産を使い込むケースが実際に生じています。
制度上、後見人の業務は任意後見監督人により監視されています。
しかし、監督人以外の第三者による監査は行われていません。
このような問題を解決するべく、第三機関による監督を業務提携している法人もあるようです。
よく任意後見制度と対比されるのが「法定後見制度」です。
法定後見制度も判断能力が十分でない方を保護する制度の一つですが、大きな違いが幾つかあります。
任意後見制度
- 本人の判断能力がある時に契約
- 後見人を自分で決める
- 自由に後見人の業務内容を決定
- 取消権なし
法定後見制度
- 本人の判断能力が不十分になった後
- 家庭裁判所が後見人を選任
- 家庭裁判所が業務内容を指定
- 取消権あり
任意後見制度は本人の判断能力がある時に契約を締結します。
よって、任意後見制度はあくまで「本人の意思」を尊重するため制度です。
そのため誰を後見人に選ぶのか、契約内容をどうするのかは本人が前もって決めることが出来ます。
ただし、本人の意思を尊重するため、本人の行為を後からなかったことにする「取消権」が認められていません。
一方、法定後見制度は本人の判断能力が不十分になった後に家族などが申し立てをして、家庭裁判所が後見人を選任します。
法定後見制度には取消権も認められており、日常生活以外の行為が対象になります。
したがって「いつもトイレットペーパーを買ってくる」ことに取消権は使えませんが、「法外な値段の壺を買わされてしまった場合」や「自宅を売却してしまった場合」などは取り消すことが可能です。
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生前契約とは、当記事で紹介している「任意後見制度」を含めた、「生前事務委任契約」と「死後事務委任契約」の三つのサポートから成り立つ契約です。
全てにご加入いただくことで、契約者本人が元気なうちからサポートを開始し、判断能力が低下した状態はもちろん、亡くなった後の事後処理まで継続的なサポートが可能です。
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また、人が亡くなると必ず必要な葬儀や火葬などの「基本型死後事務」に、必要に応じて選ぶことができる「自由選択死後事務」を追加した、死後サポートも行っています。
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今回は任意後見制度の内容とそのメリットおよびデメリットについて、紹介しました。
認知症や障害によって、自身の判断能力が低下してしまう事態は、実際にありえることです。
実際に、高齢者の65歳以上の約16%が認知症と推計されています。
さらに認知症の有病率は加齢とともに高まることが知られていて、85歳以上の男性では35%、女性では44%が認知症であるとされています。
人生100年時代と言われる昨今。
あなたでなくても、親や配偶者、その他の親族が認知症と診断される可能性もあります。
つまり、あなたも私も他人ごとではいられないのです。
あらゆる事態を想定し将来に備えることは、あなた自身のみならず、大切な周りの方の大きな助けになることでしょう。
ならばこそ、自身の希望を「任意後見契約」という形として残しておくことは、とても有意義なことではないでしょうか。
興味のある方は、あなた自身が元気なうちに、早めの検討をお勧めいたします。
次回は任意後見制度について、「契約の流れはどのようになっているのか?」「実際にかかる費用の目安」などを紹介したいと思います。
いかがでしたか?
この記事があなたの一助となれば幸いです。
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最後までお読みいただきありがとうございました。