高齢化が進む日本において、医療や介護と並びながら、これまで十分に語られてこなかった領域がある。
それが「移送」だ。
救急車でもない、公共交通でもない。
その“間”にある巨大な市場と社会課題に挑む企業が、株式会社VISTAである。
同社は現在、複数のピッチコンテストで受賞を重ねている。
- NIKKEI THE PITCH GROWTH:SMBCベンチャーキャピタル賞
- Miyagi Pitch Contest:オリコ賞
そして2月27日行われた「仙台X-TECHイノベーションアワード2026」においても、優秀賞を獲得した。
今回は、代表の戸井田氏に、事業の原点と未来について話を聞いた。

まず、この事業を始めたきっかけを教えてください

私、消防で10年間、救急やっていたんですよ
救急救命士として、年間600人以上の傷病者を搬送していました

すごい数ですね

もちろん、やりがいはありました
ですが、続けていくうちに「違和感」がつきまとうようになったんです

その「違和感」とは…

「この搬送、本当に救急車でいいのかな?って」

もちろん本当に命に関わる現場もあります
でも、そうじゃない搬送も多いんです

印象的な搬送はありましたか?

ありますよ
たぶんこの事業の原点です

ある日、鼻血が止まらない高齢者の方を搬送していました

緊急性の高くないケースですね

そうですね…歩いて救急車に乗れるくらいでした
そして、その搬送中に同じ管内でCPA…
心肺停止状態の通報が入ったんです

……

でも、搬送中だった私は
その現場へ駆けつけることが出来ませんでした…

もちろん、すぐに次に近い救急車が出動し対応しました
ですが、私たちが出動中でなければ、少なくとも5分は早く駆けつけることが出来たんです

5分…

救急の世界で、「5分」は長いです
5分間、心臓を止めて平気な人はいないでしょ

もちろん、「救急隊が5分早く現場到着していれば、結果が変わってたのか?」と問われれば、
答えは「判らない」という他ありません
でもその時、改めて思ったんです
「この搬送、本当に救急車でよかったのか?」って

制度上は問題ない判断だったんですよね

はい、間違ってはいないです
それに多かれ少なかれ、救急車に乗っている消防士は似たようなことを経験していると思います
でも、私は納得はできなかった…

「他に選択肢があれば」って、ずっと考えてました

それが起業につながった?

そうですね、現場では限界があると感じていました
「どれだけ現場が頑張っても、構造が変わらない限り、この問題はなくならない」
そう確信したんです

では、「構造」を変えるために起業を?

そうなります


現在は介護タクシー事業ですよね
これが「救急車以外の選択肢」ですか?

おっしゃるとおりです
でも、これがゴールではありません
手段の一つ…というか「構造の1ピース」です

というと?

今の医療や介護の業界って、全部バラバラなんですよ

バラバラ?

医療機関も介護施設も消防も私たち介護タクシーも…
皆、それぞれの仕事をちゃんと行っているけど、横のつながりがない
つまり点として存在しているだけなんですよね

「点」ですか

ええ
それに消防でいう傷病者、介護タクシーでいう利用者って、
意外なほど「どこに頼んでいいのかわからない」方が多いんです

特に、自分の身や家族にとって大変なことが起こっていると、ほとんどの人は冷静ではいられません
そんな状態で電話をかけるのは、「点」を狙い撃ちするようなものです
酷だと思いませんか?

確かに…

そう
だから一番有名で大きな点である「救急車」を頼る…
たとえ緊急じゃないと解っていても呼んでしまう…
というルートに陥ってしまうんですね

なるほど
確かに、救急車なら何とかしてくれそうと考えてしまいますし…

ですが、横の繋がりがあれば話は違います
たとえ間違ったところに電話しても、適切な機関につなぐことが出来ます
それどころか一元管理するセンターなどがあれば、自動で割り振ることも可能になるでしょう

だから「つなぐ」ことが重要なんです
「点」をつないでいって「面」にして受け止めればいいんです


それが今回のピッチのテーマですね

そうです

配車アプリを作って
全国の介護タクシーや民間救急をつないで
コールセンターで最適に振り分ける…
これを「民間搬送エコシステム」と呼んでいます

そういえばビスタでは他の事業も手掛けていましたよね
たしか「オンコール代行」と「介護タクシーの開業支援」だとお聞きしていますが…

ええ、それらも「民間搬送エコシステム」の1ピースと言えます
というのも、それらの事業を通じて全国の医療や介護の関係者と繋がりを構築しています
特に、開業支援を利用してくれた事業者さんたちは
これから全国の利用者を送迎・移送していく仲間といえるでしょう

これらの事業者さんには配車アプリの積極的な利用も期待しています
事業者にとっては「新規依頼の獲得」が容易になる利点があり、
我々にとっては「エコシステムへの参加」という利点があります
Win Winのシステムと言えるでしょう
そして何より利用者へは確実な移送サービスの提供が出来ます

もう「交通インフラの整備」と言っても過言ではありませんね

そうなんですよ
私は「サービス」ではなく「仕組み」を作りたいのです


“巨大市場”という言葉も印象的でした

この分野、実はニーズがめちゃくちゃあるんです!!
民間搬送市場は、アメリカでは5兆円規模
デリバリーで知られている「ウーバー」も「ウーバーヘルス」として参入しているんですよ

でも、見えていない?

そう
さらに、データがないため手を出しづらいのが実状です

データーとは?

例えば、「どこでどれくらいの移送ニーズがあるのか?」
それに対し「どの事業者が、いつどのくらい稼働できるのか?」といったものですね

また日本では産業としても、未成熟です
ブルーオーシャンといえば、聞こえはいいですけど
利潤が見えづらいから、これまた誰も積極的に手を付けない…

だからAIとDX?

はい
それらの技術を用いて、需要を予測し、配車の最適化を行い、稼働率を向上させます
つまり「可視化して、最適化する」
それだけで世界が変わると思ってます

なんか…これまで見えなかった市場(もの)が見えてきた気がします

でしょ?
これは確実に、巨大な市場になると確信しています


今回、VISTAは3つのコンテストで評価を受けましたね

ありがたいことです(ぺこり)

投資家、自治体、テクノロジー分野…
コンテストの評価基準はそれぞれ違うのに、
同じ事業に価値を見出したことになります
その理由は何だと思いますか?

たぶん「必要性」だと思います

というと?

現在、VISTAが挑んでいるのは
誰もが薄々感じていた課題
でも、誰も構造的に解決できていなかった領域です

そこに対して、VISTAは具体的な実装モデルを提示したことになりますね

ええ
単なる共感ではなく、
「実現できそうだ」と思ってもらえたのが大きかったと思います


今後の課題は何でしょうか?

間違いなく、行政連携です

というのも「民間搬送エコシステム」で
移送を担うのは「非緊急搬送」の部分です

当然、「緊急搬送」は消防救急が担うことになりますよね

おっしゃるとおりです
そのため「緊急度の有無」の判断や緊急搬送には医療・行政の協力が必要になります

さらに言えば、非緊急搬送も、医療・福祉・交通すべてに関わります
つまり、どうあっても「民間」だけでは完結しません
その上、地域ごとに適切な形で実装していく必要があります

それって、簡単な話ではないのでは…
既存の仕組みや制度、予算なんかも絡んできますよね?

そうですね
自分で言ってても、そう思います
乗り越える壁が多すぎです(苦笑)

でも…

…でも?

でも、やる価値はあると思っています!


最後に、なぜここまでやるのか教えてください

やっぱり、現場を見てきたからですね

移動できず困っている高齢者
どうにもできない家族
結果として救急車が足りなくなる現実…

……

「仕方ない」で終わらせたくない
救急車を本当に必要な人に、ちゃんと届く社会にしたいんです

それが強いモチベーションになっているんですね

はい
私はただ「あの5分」を忘れたくないんですよ

あの“5分”を、どう捉えるか。
仕方なかったと受け流すか。
それとも、構造の問題として向き合うか。
株式会社VISTAの挑戦は、後者だ。
それは、誰かを責めるためのものではない。
ただ、「もっと良くできるはずだ」という意思だ。
救急車を呼ばなくていい社会。
それは、
救急車が“本来の役割”を取り戻す社会でもある。
当記事執筆後に行われた秋田市主催の「秋田市を変えろ!市長即決ピッチ2026」でも、VISTAは見事入賞しました。
これにより行政連携へ一歩近づいたことになります。
実証実験の開始…ひいては社会への実装も、そう遠い事ではないでしょう。
この「民間搬送エコシステム」を社会に浸透させるべく、VISTAは邁進していく所存です。
そして、ビスタサポートでは介護タクシーの開業支援事業を行っております。
全国を網羅する「非緊急搬送インフラ」の構築へ、あなたも一役買いませんか?
ともに「救急車を呼ばなくてもいい社会」を作り上げましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。




