介護タクシーの開業に関して、いくつかの大きな選択肢があります。
その一つが「個人事業主」で開業するか、「法人」で開業するかの選択肢です。
ほとんどの方が経営形態で迷うと思います。
経営の際に不利益を被らないよう、それぞれの違いをしっかりと理解して経営形態を決定しましょう。
今回は「個人事業主」と「法人」の違いを比較して、それぞれのメリット・デメリットを紹介します。
この記事は、独立開業を考えている方、介護タクシーの仕事に興味のある方などに読んでいただけると幸いです。
法人を設立せずに個人で事業を営んでいる人のことを「個人事業主」と言います。
反復・継続して事業を行い、事業所得を得ている個人(または複数人)のことを指します。
ちなみに事業所得とは、継続的に得ている収入のことで「1度だけの不用品販売」などの収入は含まれません。
税務署に開業届を提出することで、個人事業主として認められます。
また、個人事業主と混同されがちなのが「フリーランス」です。
フリーランスは、企業や団体に所属せずに仕事をする働き方のこと。
そのため、個人事業主もフリーランスの働き方の中に含まれます。
両者の大きな違いは、開業届の提出の有無。
フリーランスを名乗るのに、税務署への開業届は必要ありません。ただし、税務上はどちらもおなじくくりになります。
法人とは、法律により自然人と同じ権利や義務が認められた組織のこと。
届出をした実在の人ではなく、別の存在として法的な権利や義務を行使できるようになります。
例えば、事業のための契約や各種保険への加入などに、登録した法人の名義が使用できます。
さらに、法人はその組織の目的や活動内容によって、「営利法人」や「非営利法人」などに細かく分類されていきます。
また、法人と混同しがちな言葉に「企業」と「会社」があります。
簡単に説明すると、「企業」は経済活動を行っている組織や個人を指す言葉で、「法人」も「個人事業主」も含まれます。
また「会社」は、「会社法に基づいて設立された法人のこと」を指します。
具体的には、株式会社、合同会社、合資会社、合名会社の4つが「会社」と定義されており、法人の枠組みの中の「営利法人」に当たります。
種類 | 特徴 | 代表的な組織 |
---|---|---|
営利法人 | 利益を獲得し、構成員で 利益を分配することが目的 | 株式会社 合同会社 合資会社 合名会社 |
非営利法人 | 公共の利益を目的とする 利益を得ても良いが構成員への分配は出来ない 構成員へ経費として給与の支払いは可能 | 協同組合 互助会 一般財団法人 公益社団法人 NPO法人 宗教法人 など |
公的法人 | 公的な業務を行う | 地方公共団体 独立行政法人 など |
まずは個人事業主と法人の違いを、ざっと比較してみましょう。
個人事業主 | 法人 | |
---|---|---|
事業開始までの手続き | 開業届の提出のみ (希望者は「青色申告承認申請書」も提出) | 法人登記 会社設立に必要な各種書類と 会社員の用意が必要 |
開業にかかる費用 | 0円 | 法定費用および資本金 ・株式会社で約25万円~ ・合同会社で約10万円~ |
事業にかかる税金 | 所得税(所得に応じて税率5~45%) 住民税(都道府県税+市町村税) 事業税 消費税 | 法人税(種類や規模で税率15~23.2%) 法人住民税 法人事業税 消費税 |
経費 | 事業にかかる費用を計上 自分の給与、生命保険料は経費計上できない | 事業にかかる費用の他にも給与や退職金も経費として計上可能 経費に認められる範囲が広く柔軟 |
会計・経理 | 個人の確定申告 | 法人決算書 |
赤字の繰り越し | 最大3年 | 最大10年 |
社会保険の加入と負担 | 基本的に社会保険の加入義務なし | 加入義務あり(負担は給与の15%程度) |
社会的信用度 | 法人に比べて低い | 高い 契約や融資に有利 |
ここからは代表的な違いを詳しく見ていきましょう。
前述した通り、個人事業主になるための手続きは、税務署に開業届を提出するだけで済みます。
また、法定費用はかかりませんので、極端な話0円からでも個人事業主になることは可能です。
さらに確定申告を青色申告にしたい場合は、青色申告承認申告書も一緒に提出しましょう。
青色申告は所得から最大65万円の特別控除を受けることができ、節税へのメリットがあります。
法人の場合は、会社設立をするための書類が多くあり、手続きも複雑です。それなりの時間も労力も掛かるでしょう。
また法人を設立するためには法定費用と資本金も必要になります。
設立する会社形態にもよりますが、登記にかかる法定費用として株式会社で25万円以上、合同会社で10万円以上の金額がかかります。
資本金に関しては、法律上1円でも会社設立は可能です。しかし、資本金は「会社の体力」とも呼ばれ、会社の信用度に関わってくる重要事項です。
そのため、一般的に資本金は「売り上げが無くても2~3カ月事業を継続できる金額」を目安として準備する必要があります。
個人事業主と法人では課せられる税金の種類が異なります。
中でも着目すべきは、所得税と法人税でしょう。
個人事業主が納付する所得税は、所得に応じて税率5~45%がかかります。
これは所得税が累進課税となっているためで、利益を上げれば上げるほど納税額が増え、手元に残る金額が増えにくい仕組みになっています。
高収入の場合、儲けの約半分が税金として持っていかれることになります。
これに対し、法人税は税率が15~23.2%で、所得税に比べ税率が穏やかで最大税率も23.2%に抑えられています。
そのため同じ所得でも、場合によって個人事業主の方が納税額が高くなる場合もあります。
また、個人事業主では経費に計上できない経営者や従業員の給与・生命保険料も、法人では経費に計上できます。
つまり、法人の方が課税される利益を小さくすることが出来るため、節税になります。
総じていうと、儲かっている場合、法人の方が有利となります。
もちろん個人事業主が有利な場合もあります。
それは赤字経営の場合です。
個人事業主が赤字経営となってしまった場合は、所得税や住民税の負担はありません。
しかし、法人は赤字でも法人住民税の資本金の均等割り部分の納税が発生します。
個人事業主と法人では保険や年金に関しても違いがあります。
まず個人事業主は国民健康保険(または社会健康保険)と国民年金に加入することになりますが、法人は社会健康保険と厚生年金と別の種類の保険に加入することになります。
また、法人は加入の義務がありその負担は給与の15%程度であるのに対して、個人事業主に加入の義務はありませんし、事業者負担分もありません。
ただし、個人事業主でも5人以上の従業員がいる場合は加入の義務が出てきます。
さらに、法人の社会保険料は従業員の年齢や給与によって負担が重くなることに注意しましょう。
雇用する年齢や給与設定に注意していないと、想定以上に経営の負担になってしまいます。
赤字の繰り越し年数でも、個人事業主は最大3年、法人は最大10年と違いが出てきます。
これは確定申告の際、赤字の「繰越控除」でいきてきます。
繰越控除とは、前年の赤字で当年の利益を小さく計上できる制度です。
利用すると所得税や法人税がかかる利益分が小さくなるので、当然納税額も小さくなります。要は節税になるのです。
つまり、繰り越し年数が多い方が、税金の負担を長期で軽減できるのです。
この制度は高額の設備投資をした際などに有効で、繰越年数の多い法人の方が有利と言えます。
個人事業主は事業を行うには大きな問題はありませんが、社会的信用度という点においては法人より劣ります。
なぜなら、法人は会社法などの法律に基づいてより厳格に運営されており、それが信用度の高さに繋がっています。
しかし、個人事業主にはそれがありません。
そのため、なかには個人事業主との取引を敬遠する企業もあるようです。
また、銀行での融資においても信用度の高さから,、法人の方が審査に通りやすくなります。
さらには人材採用の面でも、法人の方が社会保険や明確な就業規則があることによって、優秀な人材が集まりやすいと言えます。
それぞれのメリット・デメリットををまとめると、以下のようになります。
個人事業主のメリット
- 開業の手続きが楽
- 初期費用が抑えられる
- 一定所得までは、税金がお得
- 赤字の際、納税負担がない
個人事業主のデメリット
- 社会的信用度が低い
- 経費範囲が狭い
- 利益が上がるほど、所得税も上がる
- 赤字繰越年数が短い
法人のメリット
- 社会的信用度が高い
- 経費計上範囲が広い
- 一定所得を超えたら、税金がお得
- 赤字繰越年数が長い
法人のデメリット
- 開業の手続きが複雑で、コストも掛かる
- 赤字でも納税義務がある
- 保険などの人件費負担が大きい
- 経理・人事管理が煩雑
ここまでは個人事業主と法人の違いと、そのメリット・デメリットを説明しました。
これらのメリット・デメリットは、どの業種を選択しても同様です。
では、介護タクシー事業における個人事業主と法人の違いとは何なのか?
その最たるものは「介護保険と連動することが出来るかどうか」です。
法人であれば介護保険との連動が可能となり、いわゆる「介護保険タクシー」を運用することが出来ます。
では、介護保険と連動するとどうなるのか?
通常、介護タクシーの料金は「タクシー運賃」「介護料金」「介護機器の使用料金」で構成されています。
このなかの「介護料金」に当たる部分の支払いが、介護保険から賄われ、利用者は原則1割の負担で済みます。
介護タクシー業者は介護料金を報酬に上乗せでき、利用者は料金負担を減らすことが出来ます。
そして介護タクシーが、介護保険サービスと関係するのは「通院等乗降介助」のみです。
病院までの移動に介助が必要な人に対するサービスで、ケアプランに記載されている場合に使用できます。
つまり介護タクシー業者が受け取ることが出来る「介護料金」とは、「通院等乗降介助」に対する報酬のみであり、地域差があれど大体1000円程度となります。
言い換えると、この介護料金を受け取るため、介護保険と連動させる必要があります。
そのためには、訪問介護事務所または居宅介護事業所として、指定を受けなければなりません。
しかし、個人事業主ではこれらの指定を受けることが出来ません。
法人であることが第一条件です。
これが介護タクシーにおける個人事業主と法人の大きな違いといえるでしょう。
介護保険と連動できる法人は、介護保険利用をしている顧客にもたくさん利用してもらえます。
つまり、個人事業主より集客しやすいというメリットがあります。
前述した通り、法人でなければ訪問介護事業所としての指定を受けることは出来ません。
さらには、介護保険との連動以外にも法人開業するメリットがあります。
それが下記の二つになります。
- 介護運賃の適用
- ぶらさがり許可の取得
一般的な介護タクシー業者が採用する運賃を「ケア運賃」と呼びます。
タクシーのような距離制運賃や時間制運賃などの自動認可運賃の範囲内で運賃を設定し、運輸局から認可を受けることにより、設定した運賃による運行が可能となります。
これに対し、法人化した介護タクシーは「介護運賃」での運行もできるようになります。
この介護運賃とは、ケアプランに基づいて訪問介護サービスと連動して輸送サービスを行う際に適用する運賃のことです。
この介護運賃は、比較的自由な運賃の設定が可能で、自動認可運賃より安くなる分には、事業所の任意で設定することができます。
極端に低額な者でない限り、原価計算書の提出なしでもOKです。
正式には自家用有償運送といい、ぶらさがり許可とは通称です。
このぶらさがり許可が取得できれば、雇用している訪問介護員の自家用車を使用して、ケアプランで必要な輸送サービスを行なえるようになります。
さらに訪問介護員が2種免許を持つ必要もありません。
法人名義で車両を購入しなくても、自家用車を流用して事業に使用でき、2種免許も必要ない・・・
つまり、事業の拡大にはピッタリの許可になります。
ちなみに2種免許が必要ないため、車両のナンバーは白色でも構わないことになります。
ぶらさがり許可を取得するには、次の二つの要件を満たさなければなりません。
- 介護タクシーの許可を取得していること
- 訪問介護事業所の指定を受けていること
この許可は、介護タクシー許可にぶらさがる形…付随する形で得られる許可です。
そのため、ぶらさがり許可の申請時には介護タクシーの許可証の写しが必要となります。
また、この許可の目的は社会の需要に対応するため、訪問介護サービスを簡易的に拡大していくことにあります。
そのため、訪問介護事業所としての指定を受けていなければ、許可が取得できないのです。
この制度を利用するにあたり、注意すべき点があります。
その最たる点が「ケアプランの輸送」のみに適用されることです。
したがって、通院や本人がいなければならない日常的に必要不可欠な用事に限られます。
旅行や冠婚葬祭には適用されません。
では、個人事業主で介護タクシーを始めるメリットは何でしょうか?
それは「初期費用を抑えられる」ことでしょう。
自宅や自宅の駐車場を事業所や車庫と兼用すれば、多額のコストを抑えられます。
また人員も事業主1人が兼用すれば、人を雇う必要もありません。
つまり福祉車両一台を用意できれば、事業を開始できます。
しかし、利益が出るかどうかは実際に経営してみなければ判りません。
その中で初期費用が高額になるのは、リスク以外の何物でもありません。
起業リスクを低く抑えるなら、個人事業主での開業がよいでしょう。
いかがでしたか?
今回は個人事業主と法人の違いを取り上げたほか、介護タクシーにおけるそれぞれのメリットデメリットを紹介しました。
個人事業主のメリット
- 初期費用を抑えられる
- リスクが少ない
法人のメリット
- 介護保険と連動できる
- 集客しやすい
- 介護運賃を設定できる
- ぶらさがり許可が可能で、事業を拡大しやすい
上記のまとめを比較し、さらに前述した個人事業主および法人のそれぞれのメリット・デメリットをよく検討して、自分の開業にはどのスタイルが良いかを考えましょう。
事業が軌道に乗り、一定額の利益をだすまでは個人事業主で経営するもの良いでしょう。
初めは小さな規模から始めるのが、開業成功のコツでもあります。
安定した利益を出せるようになってから、法人化しても遅くありません。
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この記事が、あなたの介護タクシー開業の手助けになれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。