介護保険タクシーを開業するためには、「会社を設立」して、「訪問介護事業所の指定」を受け、「介護タクシーの要件」を満たさねばなりません。
その後も様々なプロセスを経ることになりますが、とりあえずの大きな項目は上記の3つ。
前回の記事では、その中の「会社設立」の仕方について、介護保険タクシーのメリットも交えて説明しました。
そこで今回は「訪問介護事業所の指定」について、詳しく説明していきたいと思います。
要件を取りこぼさないよう注意して、介護保険との連動を実現させましょう。
この記事は…
- 介護タクシー事業を安定して運営したい方
- 介護保険との連動を検討している介護タクシー経営者
- 介護タクシーの起業に興味のある方
…などにお読みいただけると幸いです。
まずは前回のおさらいとして、介護保険タクシーのメリットを簡単に説明します。
なんと言っても、介護保険タクシーのメリットは「売上アップが期待できること」です。
なぜなら、相当数いる介護保険利用者を顧客にすることができます。
さらには、指定条件が厳しくライバルが少ないという現状もあります。
つまりマーケティング的に表現するなら、介護「保険」タクシーはメジャー市場でありながら、介護タクシー業界のブルーオーシャンであると言えます。
さらに前回のおさらいとなりますが、介護保険タクシーを開業するまでの手順を見てみましょう。
表にすると下記のようになります。
- 法人を設立する
- 訪問介護事務所の指定を受ける
- 介護タクシーの要件を満たし、運輸支局へ許可申請書を提出
- 法令試験と事情聴取を受ける
- 許可証の発行と登録許可税の納付と届出
- 運賃と約款の許可申請を行う
- 使用する車両の検査と登録
- 開業後に運輸開始届を提出
訪問介護事業所の指定を受けるには、いくつもの条件を満たして自治体に認められる必要があります。
また介護タクシーの要件を満たすにも、幾つかの条件をクリアしなければなりません。
次項からそれらの条件を見ていきましょう。
今更ながら、なぜ介護保険タクシーを開業するにあたり「訪問介護事業所」として指定されなければならないのか?
それは、介護保険タクシーというサービスは「訪問介護サービス」の一つだからです。
そのため介護保険と連動するためには、訪問介護事業所になる必要があるのです。
当然、保険が適用されない介護タクシーや福祉タクシーは、その限りではありません。
では、訪問介護事業所の指定を受けるための主な要件は、下記の通りです。
- 法人格を取得する
- 人員基準を満たす
- 設備基準を満たす
なお、1番の「法人格を取得すること」は、「会社(法人)を設立すること」と同じ意味あいです。
ただし、「会社」に限らず「NPO法人」や「社会福祉法人」でも構いません。
要は個人事業主では、訪問介護事業所の指定を受けることが出来ないため「法人格」を取得する必要があるのです。
なかでも重要なのは、定款や登記簿謄本の事業目的です。
介護事業を行う場合は、あらかじめ記載する事業内容が決められています。
それが「訪問介護」と「介護予防訪問介護」です。
例えば、「介護保険法に基づく訪問介護及び介護予防訪問介護事業」というような、事業内容を定款に記載する必要があります。
もし記載されていない場合は、事業目的の変更手続きを行いましょう。
他にも予定している事業があれば、この際に追記しておくことをおススメします。
事業所を営むためには、そのための技術や資格をもった人材が必要です。
訪問介護事業所に必要な人員基準は次の通りになります。
- 管理者
- サービス提供責任者
- 訪問介護員
訪問介護事業所の責任者を「管理者」と言います。
管理者になるのに、特に資格は必要ありません。
ただし「専従」で「常勤」の1名を、管理者として配置する必要があります。
ちなみに「専従」とは、「サービス提供時間帯を通じて、当該サービス以外の職務に従事しないこと」を言います。
また「常勤」とは、「事業所で決められた労働時間を勤務する労働形態」と定義されています。
例えば、1日8時間を週5日の合計40時間…これが決められた労働時間とします。
この労働時間…1週間で40時間を満たしていれば、雇用形態がアルバイトでも常勤とみなすことが出来ます。
つまり管理者は「常勤者」の中から選び、他の役職と兼務することは出来ません。
ただし実状では、サービス提供責任者との兼務を多くの自治体が認めています。
その場合は、管理者業務に支障がない範囲で兼務するよう心がけてください。
不安があれば、事前に自治体へ確認しましょう。
サービス提供責任者とは、簡単に言うと訪問介護員のリーダーです。
そのため常勤の訪問介護員などの中から、一人以上を専従で配置する必要があります。
事業所が訪問介護サービスを提供する時間帯は、必ず一人以上いなくてはいけません。
さらに一定以上の資格を持っていないと、サービス提供責任者にはなれません。
サービス提供責任者になるための資格は以下の通りです。
- 介護福祉士
- 介護職員基礎研修課程修了者
- 実務研修修了者
- 訪問介護員養成研修1級課程修了者(ヘルパー1級免許保有者)
- 訪問介護員養成研修2級課程修了者(ヘルパー2級免許保有者)で、3年以上の介護等の業務経験者
- 看護師・准看護師・保健師
ちなみに業務規模により、サービス提供責任者を増員する必要があります。
業務規模とは、月間の延べサービス提供時間(450時間ごと)や訪問介護員数(10人以上につき)で算出します。
とりあえず開業当時は一人いれば、大丈夫だと思われます。
しかし、中長期的に事業を続けていくには、最低二人以上の責任者が必要となって来るでしょう。
また、サービス提供責任者の中にペルパー2級(現行の介護職員初任者研修修了者)の方がいれば、介護報酬が減額されてしまいます。
そのためサービス提供責任者には、実務者研修以上を修了した方を指名しましょう。
実際に送迎を行う従業員の中にも、一定以上の訪問介護員がいなければなりません。
当然ながら、訪問介護員となるには資格が必要です。
訪問介護員の資格要件は下記の通り。
- 介護福祉士
- 実務研修修了者および(旧)介護職員基礎研修課程修了者
- 介護職員初任者研修修了者
- (旧)訪問介護に関する1級・2級課程修了者
訪問介護事業所として指定を受けるには、有資格者が一人いれば良いというわけではありません。
「常勤換算方法」で2.5人以上が勤務している必要があります。
事業所に配置されている訪問介護員数が「常勤で何人分に相当するのか?」を算出するための計算方法です。
一般的な事業所では1日の労働時間が8時間。それが週5日で合計40時間となります。
介護事業では1週間あたり、全ての労働時間を就業することを「常勤」というのでしたね。
正社員で週に40時間働く人は「常勤」ですし、アルバイトでも週40時間以上働けば常勤です。
ただし常勤換算方法では、2人のアルバイトが20時間づつ働いても、1人分の「常勤」とみなすことが出来ます。
つまり、常勤者(1日8時間以上を働く人)が2.5人働くのと同じだけの時間…
8×2.5=20時間を働く訪問介護員を配置すれば良いのです。
具体例は下記の通り。
常勤2名(8×2=16)、非常勤1名4時間(1×4=4)…合計20時間で可 | |
常勤1名(8×1=8)、非常勤3名・各4時間(3×4=12)…合計20時間で可 | |
非常勤5名・各4時間(5×4=20)…合計20時間で可 | |
常勤1名(8×1=8)、非常勤3名・各3時間(3×3=9)…合計17時間で不可 |
なお、この要件は申請時だけではなく、訪問介護事業所に指定された後もずっと適用されます。
たとえ仕事が無かったとしても…です。
そのためシフトを回すための人数は、余裕をもって確保しておく必要があるでしょう。
訪問介護事業所の指定を受けるためには営業所が必要となります。
その営業所における設備の基準は以下の通り。
- 専用の区画
- 相談スペース
- 設備および備品
事業の運営に必要な広さの専用区画を設けること、とされています。
ただし、広さに明確な規定はありません。
最低でも、事務室および相談スペース合わせて10畳程度は必要だと言われています。
他事業と同一の事務室であっても構いませんが、訪問介護事務所分として明確に区分されている必要があります。
また、自宅開業を検討している方は、特に専用区画を作ることを意識してください。
住居と事務室の区画が完全に分かれており、訪問介護事業所としての独立性が保たれている必要があります。
なお、事務所は賃貸でも構いませんが、賃貸契約は必ず法人名義で行う必要があります。
また、使用目的も「事務所」とする必要があります。
相談スペースは必ず設けなければなりません。
基本的には4人が座れるテーブルと椅子、またそのためのスペースが必要です。
専用の個室がなければ、プライバシーを確保できるようパーテーションなどで区切っておく必要があります。
事務所として鍵のかかる書庫、パソコン、電話およびFAXが必要となります。
また感染予防のため、手洗い用の石鹸および消毒液が必要です。
さらに、そのための手洗い場が必要です。
事務所として賃貸している場合でも、賃貸スペース内にトイレや洗面所、給湯室があれば問題ありません。
また、オフィスビルなどで共有スペースにしか手洗い場がない場合でも、基本的にはOKです。
ただし、その共有の水道設備が感防止のための手洗い場として、使用許可されていることが条件となります。
そのため、オフィスビルや貸事務所の場合は、契約前に確認しておきましょう。
次に、介護保険タクシーを開業するには、国土交通省の運輸局から事業許可を得なければなりません。
そのためには、介護タクシーに必要な3つの要件を満たす必要があります。
その要件とは下記の通り。
- 人的要件
- 設備要件
- 資金要件
それぞれの内容については、下の参考記事の「開業に必要な3つの要件」の項目で詳しく説明していますので、是非お読みください。
介護保険タクシーを開業するには、訪問介護事務所としての要件を満たして自治体に指定され、その上でさらに国土交通省の運輸局に介護タクシーの要件を満たし営業許可をもらわねばなりません。
人的にも設備的にも、それぞれの法律に基づいた要件を満たしていく必要があります。
そのため、準備に時間も費用も手間もかかり、計画的を立てて実行しなければ、開業がいつになるかわかりません。
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最後までお読みいただきありがとうございました。