オンコールの連絡で「どんな情報集めればいいか分からない。焦ってしまって、上手く言葉が出ない。」そう思った介護士さんいませんか?
オンコール対応で「現場の状況がよく分からない。これでは指示が出せない。」と思った看護師さんいませんか?
入居者の緊急時に電話をかけなければならないオンコール。
急変の症状は一人ひとり違うため、明確なマニュアルがある介護施設は少ないでしょう。ましてや、慣れていなければ慌ててしまい、症状を上手く伝えることは難しいと思います。
今回はそんなオンコール時に、看護師などの医療従事者はどのような情報が欲しいのか。また、介護士がわかりやすく状況をつたえる方法を取り上げたいと思います。
この記事は、介護士や訪問介護のヘルパー、施設スタッフのスキルアップを目指している管理者などにお読みいただければ幸いです。
まず、オンコールで重要なのは「必要な情報を伝える」ことです。
日中に入居者の急変に気づいたのであれば、看護師を呼びサポートに徹すればいいのです。
しかし、看護師のいない夜間は、どうしても介護士が対応しなければならないため、その不安は計り知れません。
不安の原因は「何をすればよいか分からない。必要な情報が分からない」からです。
まずは急変時に行うべき一連の流れを確認してみましょう。
- 入居者の現状を観察
- 情報収集
- オンコール
- 指示に従って初期対応
- 報告書などの作成
少なくとも、上記の5つの行動をこなさなければなりません。
これらを一人でこなすのは大変なので、応援を呼んで、手分けしながら行いましょう。
まずは、入居者が現在どのような状態なのかを把握しなければなりません。
つまり「現状」…症状とバイタルサインの確認です。
現状
現在の症状およびバイタルサイン
バイタルサインの確認には、意識の確認、呼吸の有無、酸素飽和度、体温など、いろいろな項目がありますが、重要なものから行うようにします。心肺停止状態であれば、即座に119番通報が必要だからです。
最初は意識の確認と呼吸の有無を確認しましょう。
名前を呼んで意識の確認から始まります。
応えられるようなら、意識があり呼吸もしていると判断して、本人に症状を聞きつつ他のバイタルも測りましょう。
呼びかけに返事がなければ、肩を叩いて大声で呼びかけます。
それでも反応がなければ、呼吸しているかどうか確認しましょう。
反応や呼吸がなければオンコールではなく、すぐに119番です。
より重篤な症状を見分けるため、意識と呼吸の確認を優先し、酸素飽和度や体温などバイタルはその後に行います。
次にバイタル以外の情報も収集します。
なぜならオンコール対応する看護師は、バイタル以外の情報も活用して、救急車が必要かどうかを判断するからです。
収集するポイントは「時間」「変化」「対応」です。
時間
発症時刻
気づいた時間
最終健在時間
変化
発症のきっかけ・イベント
発症前後の様子・程度
対応
症状への対応
対応後の様子
まず「時間」とは発症時刻のこと。
要は「その症状がいつ起きたのか?」それが分からないなら「いつ気づいたのか?」ということ。
症状が起きてからの経過時間は、緊急度に関わりますし、病院での治療方針にも関わります。
どうしても経過時間が分からない場合は、最終的に元気だった時間を確認してください。
次に「変化」とは、「症状が起きた時なにかしていたのか?」と「どのような変化があったのか?」です。
症状が変化するには、何かしらのきっかけがあることが多いです。
ちなみに、発症時刻にしていたことを、イベントと呼んだりもします。
例えば、「トイレで用を足していた」時に「意識を失った」などの情報を伝えます。
すると看護師はそれらのキーワードから「迷走神経反射かな」など、ピンとくるものがあります。
重要なのは、発症前と後の変化の様子と何をしていたかを伝えることです。
最期の「対応」は、「その変化に対し、何か対応したのか?」です。
また「対応後、さらに変化はあったのか?」まで含まれます。
先の例を用いると、意識を失った後に何もしていなければ、ベッドに寝かせ嘔吐に備えた回復体位を指示するでしょう。
すでに回復体位をとっているならば、瞳孔の観察などの指示があるかもしれません。
対応後に、嘔吐など別の症状が出るようなら、緊急度が高いと判断し救急車の要請を指示されると思います。
これら3つに加え、前項目で観察した「現状」を加えてオンコールします。
「現状」に続き、「時間」「変化」「対応」の情報を収集したら、ようやくオンコールです。
しかし、せっかく集めた情報も伝わらなければ意味がありません。
ですので、看護師が状況を判断しやすいよう、分かりやすく伝える必要があります。
その方法は、次の項目「情報をわかりやすく伝える方法【SBAR】」でお伝えします。
この時には、既に看護師の指示の下で行動しているので、焦る必要はありません。
看護師の指示をよく聞いて、その通り実施するだけです。
ただし、入居者に悪い変化があらわれた場合は、もう一度連絡し更なる指示を仰ぎましょう。
もちろん、この時も「時間」「変化」「対応」「現状」を意識しておくと、伝わりやすいでしょう。
現場の対応が終わり、一段落したら報告書の作成をします。
サマリーへの記載やレポートにまとめ、翌日の日勤者にオンコールの内容を申送らなければなりません。
また、介護サービスを提供した際に発生した急変ならば、介護事故報告書の作成が必要です。これは、発生した事故の詳細を記して行政に提出する書類です。
市町村や事業所ごとに形式が違う場合があります。
どのようなものか事前に把握しておきましょう。
集めた情報を分かりやすく伝えるには順番が大事です。
「まず結論から話して。」そう言われたことありませんか?
この伝える順番をわかりやすく標準化するため、医療現場ではSBAR(エスバー)と呼ばれるコミニケーションの方法を用いています。
もともとはアメリカ海軍で使用されていた情報伝達ツールだったようですね。
- 状況(Situation)何が起こっているか
- 背景(Backuground)今までの経過
- 評価(Assessment)どのようなことが考えられるか
- 提案( Recommendation)具体的に何を依頼したいのか
上記の頭文字をとってSBARとなります。
まずは結論として、現在問題となっている「状況」を伝えます。
その次にどのような経緯で問題になったのか、その「背景」を伝えます。
そしてそれらの問題に対し、自分がどう考えているか「評価」し、相手に何を求めるかの「提案」を行うのです。
これらの項目を順番に伝えることで、相手は現状を把握しやすくなり、スムーズに返答を行うことができます。
当然、医療現場で用いられている手法なので、そのまま介護現場に持ち込むのは難易度が高いです。
でも、安心してください。
なぜなら、現場にいる介護士が全ての項目をこなす必要はないからです。
具体的に見ていきましょう。
ここで、オンコール前に集めた情報「現状」「時間」「変化」「対応」を、SBAR(エスバー)に落とし込んでみましょう。
するとS「状況」=「現状」であり、B「背景」=「時間」「変化」「対応」となります。
SBARにおける役割分担
- 介護士の役割
- S:入居者の現状を確認
- B:時間,変化,対応の情報収集
- 看護師の役割
- A:情報の評価
- R:行動の提案・指示
介護士は「状況」と「背景」の部分を担い、看護師に伝えることが役割。
看護師はオンコールで、その「状況」と「背景」を聞いて「評価」し、今後の行動を「提案」することが役割です。
つまりSBARにおけるA「評価」とR「提案」は看護師が行ってくれるのです。
要は、介護施設全体でひとつのSBARを完成させることができればOK。
そのためには介護士と看護師の連携が大事になってきます。
ここでシミュレーションをしてみましょう。
- 80歳、男性、入居者
- 38.5度の発熱
- 脈拍90回/分、呼吸数24回/分、酸素飽和度92%
- 夜間の巡回時、苦しそうに呻いていたのを発見
- 昼食時、酷くむせていたとの情報あり
- 1時間ほど、クーリングを実施しても改善しない
- 普段の酸素飽和度は96%以上
ちなみに今回の看護師役は、オンコール代行の救命士ビスタ君におこなってもらいます。
ご了承ください。
はい、こちらオンコール代行の救命士ビスタです。
私はショートステイ秋田の介護士の佐藤です。
入居者の80歳の男性が高熱を出しています。
高熱とはどれくらいですか?
また、呼吸数や脈拍など他のバイタルはどうでしょうか?
はい、現在38.5度です。
パルスオキシメーターでは、呼吸数は24回、脈拍が90回、酸素飽和度 は92%です。
血圧は苦しがっていて、機械でうまく測定できません。
でも、手首の脈は感じることができます。
わかりました。
では高熱はいつからでましたか?なぜ、そのことに気づいたのですか?
夜12時の巡回時に苦しそうに呻いていたので気づきました。
いつ熱が出たかは分かりませんが、夕食前は36度台だったと聞いています。
1時間ほど経過していますが、電話の前に何かの処置はしましたか?
また、本日普段とかわったことはありましたか?
現在、氷嚢で頭を冷やしたり、布団の枚数を減らしています。
ですが、見つけた時と変わりありません。
日中の記録では、昼食時にひどくむせていたようです。
この方の普段の酸素飽和度はどのくらいですか?
え~と…
記録をみると普段は96%以上のようです。
酸素飽和度の低下や昼食時のむせかえりなどから、誤嚥している可能性があります。
救急車を要請してください。
このシミュレーションの介護士さんは、情報収集も受け答えも良くできていますね。
最初にSBARのSにあたる現在の症状を的確に伝えていました。
特に機転を効かした血圧の推定は見事です。
次にSBARのAの背景について、伝えています。
まず「時間」ですが、気づいた時刻と最終健在のわかる受け答えですね。
「変化」についても、日中は平熱で夜間に高熱がでたこと。昼食時にむせかえったイベントなどが含まれています。
そして「対応」については、クーリングしたけど効果がなかったことが伝えられています。
またビスタ側からは、介護士から伝えられた情報で誤嚥性肺炎の可能性があるという「評価」と救急車要請という「提案」がなされていました。
以上のように、滞りなく進むためには、まず現在の状況を話し、次に背景を話すのがわかりやすいのです。
そのためにも情報の収集は必須です。
逆に言えば、うまく伝えることができなくても、情報収集さえできていればなんとかなります。
なぜならオンコールを受ける側…医療知識を持つ看護師や救命士側で聴きだしてくれるからです。
介護士はコール前に一度落ち着いて、日中勤務の申送りやサマリーなどから情報を集めるようにしましょう。
オンコールは介護士と看護師の連携が鍵を握ります。
したがって、入居者に微熱がある、便の色が悪いなど、ちょっとした異変があるのなら、日中のうちに看護師に相談しておきましょう。
どのくらいの変化でオンコールすればよいのか、という目安だけでもわかっていれば介護士側は気が楽です。欲しい情報も前もって聞いておくことで、素早く収集できるでしょう。
また看護師側は、実際のオンコール時には、事前の情報があるので最小限のやり取りで済みます。
ただし事前打ち合わせをするのは、手間もかかるため両者の関係が良好でなければ難しいかもしれません。
これは両者の職務や専門性の違いから、ある程度仕方ないことです。
ですので、お互いの立場を認め合い、理解し合うことを念頭に置きましょう。
施設側で夜勤の交代前に、事前打ち合わせのミーティングを設けてもよいでしょう。
業務上決められたルーティーンにしてしまえば、個人の人間関係に頼らなくても良くなります。
また、オンコール時の負担を軽減するという意味では、施設独自の情報収集リストを作っておくというのも有効ですね。
リストは介護士の行動指針になりますし、看護師の指示出しも減るでしょう。
いっそのこと、オンコール代行を用いるのも良いでしょう。
何かにつけて、オンコールが施設内の悩みの種であることは周知の事実。
外部委託することで看護師と介護士、または看護師同士の関係に負担がかからなくなります。
関係の良化は施設全体の利益につながるでしょう。
オンコール時に看護師が介護士に求める情報は以下の4つ。
現在の症状だけでは、看護師は指示ができません。落ち着いて情報を集めましょう。
- 「現状」バイタルを含めた現在の症状
- 「時間」発症時刻、気づいた時間
- 「変化」発症時のイベント、発症前後の変化
- 「対応」症状への対応とその後の様子
伝え方にはSBARを意識します。
特に介護士は問題の結論となる「現状」から伝えるようにしましょう。
問題の背景となる「時間」「変化」「対応」はその後でいいのです。
SBARにおける役割分担
- 介護士の役割
- S:入居者の現状を確認
- B:時間,変化,対応の情報収集
- 看護師の役割
- A:情報の評価
- R:行動の提案・指示
また、オンコールをより良く行うには看護師と介護士の連携が重要です。
いくつかポイントを取り上げてみました。
- 看護師と介護士の事前打ち合わせ
- 夜勤勤務交代時のミーティングに組み込む
- 情報収集リストを作成する
- オンコール先を外部に委託する
オンコールは介護士が現場で集めた情報を、看護師が判断しその後の行動を指示します。
お互いの関係を良好に保ちながら、より良いオンコールを行える下地を醸成しましょう。
この記事が情報収集や伝え方に不安がある介護士のお役に立てたなら幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。