救命講習の関連記事で、当サイトではこれまで「救命講習の種類」や「心肺蘇生法のやり方」、「AEDの使い方」について紹介してきました。
一記事目はどのコースを受講すればよいのか?
二記事目は動画と説明文を交えて「心肺蘇生法」を解りやすく解説。
三記事目は、「AED」とは何か?またその使い方について解説しました。
今回は救命講習関連記事のまとめとして、実際に救命講習が役立ったエピソードを紹介したいと思います。
この記事は…
- 救命講習の受講を迷っている方
- 心肺蘇生法やAEDの効果について疑問を持っている方
- 実際の救命現場について興味のある方
さらには「救命の現場に遭遇する可能性のある全ての方」に読んでいただきたい内容です。
なぜなら、実際に命を救うのは、その場にいる貴方なのですから。
ここからは皆様に伝わりやすいよう、普段の記事と違う雰囲気で書かせていただきました。
医療人になる前に聞いた話をまとめたものです。
ある秋口の午後。
いつものように、消防署で訓練や事務仕事をこなしながら勤務していると…
突然「ピーピーピー」と庁舎内に大きなスピーカー音が鳴り響きました。
出動です。
しかも、いつもの「ピーポー」という救急隊の出動トーンではありません。
「救命対応だ!」
慌てずにスピーカーから流れて来る出動指令に耳を傾けながら、救急車までダッシュします。
「○○消防から各局 救命対応 ××町△番地◇◆ 出動隊××救急」
すばやく感染防止衣を身に着け、隊の仲間と共に救急車に乗り込み出動。
今回は救命対応のため、消防隊からも1名の隊員が助っ人として乗り込んでおり、計4名での出動です。
現場へ向かう途中にも、指令課から現場の情報が送られてきます。
「70代女性、意識無し呼吸無しの状態。
買い物から帰宅した夫が、妻の姿が見えないことを不思議に思い探したところ、庭で倒れているの発見し救急要請。
1階の固定電話から通報しているため、現状の詳細は不明。
現在、口頭指導を実施中・・・」
その無線を聞きながら私は率直に「厳しい活動になる!」と感じました。
なぜなら、これらの情報には不安な点がいくつもあったからです。
意識無し呼吸無しの状態であり、心肺停止状態であることは確定している点。
傷病者がいつ倒れたか分からない点。
傷病者と通報者が離れた位置におり、現状が不明な点。
通報者である夫も高齢だと予想でき、口頭指導でうまく心肺蘇生法が実施できるか不明な点。
そして最大の不安要素は、現場住所が消防署から通常なら15分以上かかる場所だった点です。
緊急出動しているとはいえ、10分以上かかるのは確実。
通常、人間は3分以上の酸欠が続くと脳細胞が壊死し始めます。
その状態が10分以上…
私は救命措置に素早く映れるよう車内の準備をしながら、祈る気持ちで現場へ走ったのです。
救急車が現場へ到着すると、玄関先で傷病者の夫が手を振っています。
救急車を誘導してくれているのです。
にもかかわらず、私は失礼ながら「なんでここにいるんだ」と思ってしまいました。
通常の救急現場なら、誘導はとてもありがたい事なんですが…
しかし、今回は心肺停止が強く疑われる救命対応事案。
傷病者に胸骨圧迫をしていて欲しかった!!
そう思いながら誘導に従って、救急車をおりました。
「倒れている現場はどちらですか?」
すぐに夫は「こっちだ」と案内してくれました。
現場は、自宅脇の砂利の狭い通路を通らねばならない裏庭。
これは案内なしでは迷っていたかもしれない…
砂利の通路を抜けて裏庭へ駆け込みます。
すると、植木の影から目に飛び込んできたのは…
傷病者の上にまたがって、必死に胸を押している男性…息子さんの姿でした!
「助かるかもしれない!!」
今までの不安な気持ちが一転。
光明が見えた感じがしました!
「ありがとうございます!代わります!!」
お礼を言いながら、私は素早く観察を実施。
総頚動脈は触れないが、ギャスピング…死戦期呼吸がでている。
これは間違いなく息子さんの胸骨圧迫の効果だ!!
死戦期呼吸は、心停止直後にまま見られる症状です。
ガス交換そのものは出来ていないものの、必死に生きようとしている脳が血液中に残った酸素を使って、何とか呼吸をしようとしているために見られる症状。
つまり、これは息子さんが頑張って繋いでくれた救命のチャンス。
「何としても助けたい!!」
私が観察中に消防隊の助っ人が胸骨圧迫を実施。他の隊員もAEDのパッドを貼付け終わっています。
そして心電図を解析…
幸いAEDの解析の結果、電気ショックをかけられる!!
充電後、すかさず私は電気ショックのボタンを押したのです。
その後、現場で心肺蘇生法を実施。
狭い通路も助っ人消防隊員のおかげで何とか時間をかけずに、傷病者を車内収容することができました。
すぐに息子さんに救急車に同乗してもらい、病院へむけて出発。
救急車内でも心肺蘇生法を継続しながら、特定行為である静脈路確保の準備をしていると…
「体が動いたぞ!!」
隊員の大きな声が聞こえました。
すぐさまAEDのモニターを見ると、そこには綺麗な波形が…
もちろん総頚動脈も触れています。
心拍が再開したのです。
さらに幸いなことに、しばらくすると自発呼吸も出始めました。
それから私たちは、呼吸の補助と継続観察を行いながら、病院まで搬送したのです。
病院到着し、医師へ傷病者を引き継ぐと、私は同乗してくれた息子さんに話を聞きに行きました。
息子さんは病院の待合室で、我々救急隊が到着するまでのことを細かく話してくれました。
父親と買い物から帰ったら、この時間にはいつも居間でテレビを見ている母親の姿が、今日は見えなかったこと。
嫌な予感がして、探していたら裏庭でうつ伏せに倒れていたこと。
なんとか仰向けにして、観察したところ息をしていないとわかったこと。
すぐに父親に119番を頼み、自分は胸骨圧迫を開始したこと。
父親は慌てながらも119番通報をしてくれたこと。
必死で胸を押し続けたこと・・・
私がどうしてそんなに的確に行動できたのかを尋ねると…
「3か月ぐらい前に職場で救命講習を受けたんです。
私自身は消防さんと連絡を取ったり、会場を準備したりする主催側の係だったので、受ける気は無かったんですが…
けど、その時講師に来てくれた救命士の方が、『いつ役に立つか分からないから、一緒に受けよう』と誘ってくれました。
その時は(心肺蘇生法を)使うことになると思ってませんでしたが…
講習を受けておいて本当に良かった。」
そう答えてくれた息子さんは、家族を救ったヒーローに見えました。
今回の事案は、救命講習でいうところの「サバイバルチェーン(救命の連鎖)」がしっかりと繋がった良い事案だといえます。
発見者である息子さんが、しっかりと観察・心肺蘇生法を実施。
その間に傷病者の夫が119番と誘導をするという、役割分担も行っていました。
救急隊が現場に到着するまでの10分以上の時間を、絶え間ない心肺蘇生法で命を繋いでくれたのです!
そのおかげで救急隊到着時には死戦期呼吸が見受けられ、傷病者の脳に血液が循環していたことが判りました。
そこから我々救急隊が心肺蘇生法を引き継ぎ、電気ショックも実施。
搬送後、病院の2次救命措置へさらに引き継いでもらいました。
この事案はそれぞれがキチンと自分の役割をこなしたことにより、非常に良い結果が得られました。
特に息子さんの貢献が最も大きかったといえるでしょう。
このサバイバルチェーン…救命の出発点は現場にいるであろう皆さんです。
つまり命を救うのは、救急隊ではなく、病院にいる医師でもなく…
その場にいる貴方なのです!
唐突ですが、ビスタサポート代表である私の前職は、実際の救急現場で活躍した救急隊の「救急救命士」です。
前述した通り、このエピソードは医療従事者になる前に聞いたもので、前の職場で経験したものでも、聞いたものでもありません。
しかし、救急隊時代に幾つか同じような救命の経験をしてきています。
その時の経験をもとに、イメージを膨らませて、臨場感が出るように書かせていただきました。
いわゆる「事実をもとにしたフィクションです」…的な感じで、読んでいただけるとありがたいです。
しかし、大事なことは事実!ノンフィクションです!
- 息子が心肺蘇生法をし続けていたこと
- 夫(父)も通報や誘導で上手く連携してたこと
- 息子が救命講習を受講していたこと
- 妻が助かったこと
もはや「救命講習を受けていたから、家族を助けることができた」ともいえる事案でしょう。
ここからは私見です。
心肺停止の現場で、そばにいる人が胸骨圧迫…いわゆる心臓マッサージをしていないと、倒れている人の助かる確率は物凄く低くなります。
ほぼ0といっても良いくらいのレベルです。
しかし、胸骨圧迫をしてくれているだけで、助かる確率が出てきます。
私が救急隊員だったときは、傷病者のそばにいる人…バイスタンダーが胸骨圧迫をしてくれているだけで「助かるかも!」と思って活動していました。
逆に言うと、現着時にバイスタンダーが胸を押していなければ「厳しい!!」と思っていたんです。
もちろん、どちらの場合でも全力で活動していましたが・・・
何が言いたいのかというと、それだけ「早く胸骨圧迫を始めるのは、心肺停止状態の傷病者にとって超重要!!」だという事。
多少、やり方が違っていたとしても、私的には構わないと思っています。
何もしないより何倍もいい。
「しっかりと力を入れて」、「胸の真ん中を」、「継続的に」、「救急隊と交代するまで」、胸骨圧迫を行ってください。
倒れている人に、何かをするのは怖い事でしょう。
ものすごく勇気がいる行為だと思います。
しかし、その勇気ある一歩で助かる人がいます。
助けられる命があります。
救命講習を受講することは、心肺蘇生法を習得することだけでなく、その一歩を踏み出す勇気にも繋がることでしょう。
あなたの力と勇気を、目の前の倒れてしまった人の為に使っていただけると幸いです。
いかがでしたか?
今回は「救命講習を受けることが、いかに役立つか」というエピソードをお伝えしました。
この記事で、ひとりでも多く「救命講習を受けよう」と思っていただけると嬉しいです。
また我々ビスタサポートは、地域の介護・医療を支えるサポート企業として日々活動しています。
移動に不自由を感じている方。
また、移動の介助や送迎に苦労されているご家族様。
是非、ビスタサポートにお声がけください。
救急救命士の安心・安全な送迎をお約束いたします。
最後までお読みいただきありがとうございました。