救命講習で習うメインの応急手当は「心肺蘇生法」と「AEDの使い方」。
では、それだけで十分かといわれると、答えはNOです。
他にも覚えてもらいたい手技が幾つかあります。
例えば…
「おじいちゃんがモチをのどに詰まらせた!!」
「交差点を渡っていたら、車に跳ね飛ばされた。足が折れているみたい…」
といった重大な事案に関する応急手当を覚えておくと、いざという時に役立ちます。
さらには…
「なれない料理をしていたら、包丁で深く指を切っちゃった。どうしよう…」
「バーベキューで火起こししてたら、手の甲を火傷しちゃった。」
という、軽めの事態に対処する手当も覚えておいて損はありません。
そこで、今回は上級救命講習で習う心肺蘇生法以外の応急手当を取り上げたいと思います。
この記事は…
- 色々な応急手当について知っておきたい方
- 以前、応急手当が出来なくて困ったことがある方
- これから上級救命講習を受ける予定の方
などにお読みいただけると幸いです。
そもそも応急手当とは何でしょうか?
私たちはいつも通りの生活をおくっていても、いつ、どこで、どのようなケガや病気になるかわかりません。
そのような時に、自分たちで行う手当のことを「応急手当」といいます。
基本的に応急手当は「直す」ためのものではなく、「悪化を防ぐ」ためのものです。
そのため、簡単なケガであれ、様子を見ても改善しないようであれば、病院での治療が必要となります。
また、応急手当には、大きく分けて「救命処置」と「その他の応急手当」があります。
救命処置とは、応急手当の中で特に緊急性が高く命に関わる症状に対して行う応急手当になります。
下記の表が「救命処置」の種類です。
- 心肺蘇生法
- AEDの使用方法
- 気道の異物除去
呼吸や心臓が停止した人に行う救命処置が「心肺蘇生法」と「AEDの使用方法」です。
この2つの応急手当は、以前それぞれに説明記事を書いていますので、下記のリンクからご覧ください。
心肺蘇生法(CPR)のやり方-動画と説明文でわかりやすく AEDとは-使い方と救命の手順を学ぼうまた、「気道の異物除去」は喉に物が詰まったときに行う救命処置です。
喉に物が詰まると窒息状態となり、そのまま放置すると死んでしまいますね。
非常に危険で緊急性が高いため、救命処置のグループに入っている応急手当となります。
その他の応急手当は「ファーストエイド」とも呼ばれ、急なケガや病気の人を助けるために行う最初の行動を指します。
このファーストエイドには多くの種類があります。
なぜなら、ケガや病気は多種多様ですからね。
つまり、それぞれの系統に合わせた応急手当が求められます。
- 楽な姿勢、症状に合わせた体勢をとらせる「体位管理」
- 出血を止める「止血法」
- 傷に行う手当と「被覆」や「包帯」
- 折れた骨を支える「固定」
- 火傷を冷やす「冷却」
- 動けない傷病者を運ぶ「搬送法」
以上が救命講習で習う代表的なその他の応急手当の種類となります。
この他にも様々な応急手当がありますが、8時間の上級救命講習でも時間の都合上、割愛されやすいです。
ちなみに、どのようなものがあるかというと…
- 気管支喘息発作に対する応急手当
- アナフィラキシーに対する応急手当
- 低血糖に対する応急手当
- 失神に対する応急手当
- けいれんに対する応急手当
- 捻挫や打撲に対する応急手当
- 首を痛めた時に対する応急手当
- 歯の損傷に対する応急手当
- 溺水に対する応急手当
- 毒物に対する応急手当
- 低体温に対する応急手当
等々…色々な手当てがあることがお分かりいただけたと思います。
また、近年では「熱中症に対する応急手当」や「新型コロナ感染症患者に対する救命処置」など、気候や感染症に対応した応急手当も考えられています。
今回はその他の応急手当6つに、「気道の異物除去」を加えた計7つの応急手当を説明します。
ですがその前に、重要事項がひとつ。
応急手当を行う場合、周囲の状況を確認し、自分の安全を確保してから行ってください。
例えば、車に轢かれた人を助けるためでも、いきなり道路の真ん中で応急手当をはじめてはいけません。
なぜなら、助けに行ったあなたも轢かれてしまいます。
道路の脇に移動したり、他の人に車の誘導をしてもらいましょう。
それ以外の場合であっても、状況に応じた安全の確保を行ってから、手当てを行いましょう。
気道内の異物除去にはいち早い応急手当が求められます。
そのためには、最初に窒息しているかどうかを判断しなければなりません。
まずは苦しがっている傷病者に喉が詰まったかどうか尋ねましょう。
返事はないが、声が出せずに頷くようであれば窒息と判断してください。
また「チョークサイン」と呼ばれる、喉を両手の親指と人差し指で掴むようなしぐさをしている時も、窒息していると判断しましょう。
もし傷病者が咳をすることが可能な状態であれば、出来るだけ咳をするよう促します。
なぜなら自力での咳は、最も異物を喀出できる方法だと言われているからです。
自力での喀出が無理な場合は、周囲にいるあなたが異物除去法を行います。
異物除去には「背部叩打法」と「腹部突き上げ法(ハイムリック法)」があります。
背部叩打法は簡単で、傷病者の後方から背中を叩くだけです。
自分の手の平の付け根で、相手の肩甲骨と肩甲骨の間の背中を何度も力強く叩きます。
こうすることで、胸部が圧迫され肺の中の空気が気道に押し出されます。
その空気の圧力で、気道に詰まった異物を一気に外に押し出すのです。
そのため、叩くときは優しく叩いても意味がありません。
力強く、異物が出てくるよう何度でも叩きましょう。
また、倒れている人の背中を叩くときは、まず相手を側臥位…横向きにします。
そして、相手の胸に自分の太腿をあててから、背中を叩きましょう。
こうすると効率よく胸部が圧迫され、異物が押し出される確率が上がります。
背部叩打法で効果がない時は、腹部突き上げ法を試します。
まずは傷病者の後ろからウエスト付近に両腕を回します。
次に片方の手で握り拳をつくり、もう片方の手で覆います。
握った両腕を傷病者のへその少し上にあてると、一気に手前上方に付き上げます。
こうすることで、腹部方向から傷病者の胸部が圧迫され、肺の空気が一気に押し出されるという仕組みです。
ただし、妊娠している人や両腕が回らないような肥満体型の人には行えないので、注意しましょう。
手技自体も腹部突き上げ法は難しいため、まずは背部叩打法を試しましょう。
異物除去中に傷病者の反応が無くなった場合、ただちに119番通報を行い、その後心肺蘇生法を実施してください。
もし近くに他の人がいる場合は、119番通報とAEDの準備は他の方に依頼し、自分は心肺蘇生法を行ないましょう。
傷病者の症状に合わせた姿勢をとらせ、保つことを体位管理といいます。
これにより、症状の苦痛を和らげたり、呼吸や血液の循環を保ち、悪化を防ぎます。
基本的には傷病者が「楽だ」と感じる体位をとらせるのが良いとされています。
代表的な体位には「仰臥位」「坐位・半坐位」「ショック体位」「回復体位」などがあります。
いわゆる「仰向け」です。
全身に無理な緊張を与えず、自然な姿勢。
意識がある場合で本人が嫌がらなければ、基本的に仰臥位で良いでしょう。
ただし、意識がない人に行ってはいけません。
仰向けになりながら、意識がない状態で嘔吐すると、窒息の可能性が上がってしまいます。
坐位とはいわゆる「座った」状態。
半坐位は、仰臥位と坐位の中間。リクライニングを半分倒した時の姿勢です。
これらは呼吸が苦しい人、胸部が痛く苦しい人がとりやすい体位です。
上体を起こして座ることにより、血液を下に移動させ、呼吸をしやすくしているのです。
ですので、無理に横にならせてはいけません。
半坐位とは逆で、仰臥位の状態から足を布団の上などにあげて、下半身を上にする体位です。
貧血や多量の出血などにより血液が少なくなった時、ショック体位をとることで一時的に心臓へ戻る血液を多くすることが出来ます。
こうすることで、脳への血液循環を保つ働きがあります。
顔色が妙に白かったり、唇が青紫色でチアノーゼが見られた時に行いましょう。
ただし、頭部に外傷が見受けられた時に行ってはいけません。
反応はないが「普段通りの呼吸」をしている方に使う横向きの体位です。
横向き(側臥位)にした体の下側にある腕を前方にまっすぐ伸ばします。
また、上側にある手を頬の下に、上側の脚を膝を曲げた状態で前に出し、地面や床面につけます。
こうすることで、身体がうつ伏せに倒れないようにします。
この体位をとることで、たとえ意識のない状態で嘔吐したとしても、吐物は横に流れ出ます。
そのため、窒息しにくいという利点があります。
回復体位にすると、胸やお腹が見えにくくなり、呼吸の判別が困難になります。
事故を防ぐため、回復体位をとらせた後は自分や他の誰かに観察を続けてもらいましょう。
一般的には体内の20%の血液が失われると、出血性のショックを起こし、30%以上を失えば命の危険があると言われています。
そのため、出血は量が多ければ多いほど、迅速な手当てが求められます。
応急手当で行うのは「圧迫止血法」といい、出血している傷口を直接押さえる止血法です。
まずは傷を確認し、出血している場所を特定します。
出血場所が判ったら、清潔なハンカチやタオルを傷口に当てて、その上から指先や手の平で強く圧迫します。
少量の出血量であれば、これで止血できます。
しかし、それでも止まらなければ両手で抑えた上、体重をかけて圧迫しましょう。
注意点としては、途中で圧迫を解除しない事です。
せっかく止まりかけていた血が動き出し、また出血してしまう可能性が高くなります。
また、止血する人は傷病者の血液に直接触れないよう気をつけましょう。
血液はウイルス性の肝炎やエイズなど、様々な病気を媒介してしまいます。
そのため、救護者はゴム製の手袋やビニール袋を使って、直接血液に触れないようにして手当てを行いましょう。
被覆や包帯は傷口を保護し、細菌やウイルスの侵入を防ぐことを目的に行います。
そのため出血している場合、まずは止血を優先します。
もし傷口が開いている時は、滅菌ガーゼや清潔な布を最初に当てるようにします。
その上から、余裕をもって覆う事の出来る十分な大きさの三角巾や包帯を使用します。
また、三角巾や包帯の結び目が傷の上に被らないよう気をつけましょう。
ケガをして、腕や脚が変形していたり、本来とは別方向に曲がっている場合は骨折を疑いましょう。
その場合は、それ以上の悪化を避けるため、固定法を行います。
固定することで動きを抑制し、移動の際の痛みを和らげることにも繋がります。
まずは本人に聞いて、痛みの部位を確認します。
出血はないか、腫れていないか、変形している方向はどちらか、骨は飛び出していないか…等々を確かめます。
その際、変形しているからといって、無理に元の位置に戻そうとしてはいけません。余計な悪化に繋がります。
受傷部位を確認したら、固定に入ります。
その際、医療用の器具がなくとも、身の回りにあるものを使いましょう。
添え木がなければ、雑誌や段ボールでも構いません。三角巾が無くても、タオルで代用できます。
救護者が複数人いるならば、骨折している所を支える人と、固定する人に別れると作業がしやすくなります。
受傷部位を本人が支えることが出来るならば、本人にまかせるのが良いでしょう。
固定の仕方は、骨折した骨の上下の関節を固定できる長さの添え木や雑誌を用意します。
そして本人や協力者が支えている間に、骨折部位を跨ぐように木や雑誌を添え、その前後を三角巾などで縛って固定します。
つまるところ、骨折部位の動きが抑制できれば良いと考えましょう。
腕などを骨折した場合は、最後に三角巾で吊り上げると、その後の移動が楽になります。
もし、骨折が疑われる部位が首や腰、太腿だった場合はすぐに119番通報しましょう。
冷却は火傷に対する応急手当です。
火傷は、炎や熱された物体に触れたり、熱いお湯や油などが体にかかってできるのが一般的です。
しかし、湯たんぽやカイロなどでも長時間同じ部位に当てていると火傷になってしまう「低温熱傷」や、塩酸や硫酸などの化学物質が皮膚に付いたりしてできる「化学熱傷」などもあります。
いずれにしろ、「冷却」の方法は簡単で、水道の流水で冷やすだけです。
化学熱傷に関しては、原因となった化学物質を洗い流す効果もあります。
きれいな流水で、10~20分程度痛みが和らぐまで冷やすことが大事です。
こうすることで火傷自体の治りを速くすることが出来ます。
また衣類の上からお湯や油がかかった場合は、衣類ごと冷やしましょう。
冷やさずに下手に脱いでしまうと、皮膚も一緒に剥離する危険があります。
広範囲を火傷した場合も、火傷部分を冷却しますが、身体全体の冷やすと必要以上に体温を奪ってしまいます。
過度な冷却は控えましょう。
また、冷却パックや氷は冷えすぎて、悪化することがあるので冷却に向いていません。
さらに火災などで熱い煙などを吸い込んでしまった場合、気道や肺が火傷している場合があります。
腫れてくると、窒息の危険もありますので、病院を受診しましょう。
傷病者がいる場所が安全な場所であれば、その場で救急車を待つことが可能で、その間に応急手当を行うことが出来ます。
しかし、その場が道路の真ん中だったら、まずは傷病者を移動させねばなりません。
応急手当は安全が確保された状態で行うべきものだからです。
また、地震や水害などの災害時は、怪我をした方や自分では移動できない方などを、その場に居合わせた人たちで搬送しなければなりません。
そのためにも、出来るだけ少ない苦痛で移動する方法や、身の回りにあるもので担架を作る方法などを知っておく必要があります。
応急手当には、そのような時の為に「搬送法」も含まれています。
道具を用いない「徒手搬送」と代表的な搬送道具である「担架搬送」に分かれています。
一人で運ぶ場合は、相手が小柄なら抱いて運び、それ以外なら背負って運ぶことになります。
また、意識がない人などを急いで安全な場所に移動させたい時は、後ろから抱えて運びます。
その場合、傷病者の脚を重ね、救護者は傷病者の後ろから上体を起こし、両脇を通して自身の手を入れ、傷病者の片腕の肘近くと手首をつかみます。
そして、そのまま傷病者のお尻を浮かせ足を引きずるようにして、後ろ向きに搬送します。
協力者がいるならば、もう一人が重ねた傷病者の脚を持って、二人とも立ち上がり、前向きに搬送します。
また、二人で運ぶ時は両脇について運ぶことも可能です。
傷病者の両脇についてそれぞれ肩を入れましょう。救護者はお互いの手首をつかみ、傷病者の背中を支えます。この時、傷病者は救護者の首の後ろに腕を回しましょう。
そして、もう一方の手で傷病者の膝をしたから抱えて、持ち上げます。
ここでも救護者はお互いの手首を握り合うと良いでしょう。
担架で搬送する場合は救護者が通常4名。最低でも2人以上必要です。
進行方向に傷病者の脚側を向けて搬送するのが原則です。
搬送の途中に階段などの傾斜がある場合は、常に傷病者の頭の位置が高くなるよう配慮しましょう。
また、担架がない場合は身の回りのもので代用できます。
代表的なのは、物干しざおなどの強度がある棒2本と毛布を使う方法です。
毛布を広げ、約1/3の場所に棒を置き、棒を包み込むようにして折り返します。
もう1つの棒を折り返した毛布の上に置いて、さらに折り返します。
この時、端を15cm以上残るように注意しましょう。
これで毛布同士で摩擦がかかり、人が乗っても大丈夫な担架の完成です。
詳しくは下記の動画をご覧ください。
毛布の代わりに5着以上の上着を使う方法もあります。
また、棒が無くても、毛布だけで担架代わりにする方法もあります。
毛布の両端を丸めて握りやすくし、4人以上で持つことで、担架のように横になった傷病者を運ぶことが出来ます。
今回紹介した応急手当は、上級救命講習で詳しく訓練することが出来ます。
8時間のコースで、一日がかりとなりますが、緊急時に役立つ内容ばかりなので、時間に余裕のある方は是非受講をお勧めします。
また、救命講習の際に「応急手当が上手くいかなかった時や間違ったやり方をしてしまった場合、責任を問われることがあるのか?」と質問を受けることがあります。
安心して下さい。
法律では、刑法37条の「緊急避難」と民法第698条の「緊急事務管理」とで規定されており、善意による応急手当を行った場合は、刑事上も民事上も責任を問われることはないと考えられています。
そのため、助けたいと思ったらためらう必要はありません。
自己の安全が確保できるなら、応急手当が必要な方に手を差しのべてあげてください。
その少しの助けが、命を救うことになるかもしれません。
いかがでしたか?
今回は上級救命講習で習う応急手当にスポットを当てて紹介しました。
この記事があなたの一助となれば幸いです。
またビスタサポートでは、地域の介護・医療のサポート企業として日々活動を続けています。
移動でお困りの方。
通院や施設への送迎で、苦労されているご家族様。
我々ビスタサポートにお声がけください。
安心安全の送迎をお約束いたします。
最後までお読みいただきありがとうございました。